2019年度 エナゴ・グラントへの採択
おめでとうございます

皆様の研究が、
世界に届きますように!

エナゴ奨励金 採択者インタビュー

2019年度 エナゴ グラント 採択者インタビュー

石川 智愛(いしかわ ともえ)先生
(慶応義塾大学 医学部 薬理学)

研究テーマ:生体マウスから捉える血管周辺スペースの生理変動とその機能

脳卒中や脳腫瘍は深刻な病気ですが、その後に脳内に異常な量の水が溜まってしまうと、脳の内部が圧迫されて、頭痛や吐き気、意識障害など、さらに危険な状況をもたらします。脳浮腫と呼ばれるこの病態については、メカニズムがわかっておらず、有効な治療法も確立していません。2019 年エナゴ奨励金・メディカル研究部門を獲得された石川智愛さんは、脳の血管周辺スペースという、これまで注目されてこなかった部位に着目して、脳浮腫の発生メカニズムの解明に挑んでいます。もともと文系科目が好きだったという石川さん。研究者を志したきっかけについても伺いました。

どのような研究をなさっているのですか?

私は脳浮腫が起こるしくみについて研究しています。脳浮腫とは脳に異常な量の水が溜まってしまう状態のことで、脳の一部が損傷したり、脳腫瘍ができたり、あるいは脳の血管が詰まって脳卒中が起きると発生します。脳卒中の患者さんは年間数十万人にのぼると言われていますが、その後に生じる脳浮腫に関しては治療薬も治療法も見つかっていません。まずは脳浮腫がどのような状態なのか、その根本を明らかにして、治療につなげたいと考えています。

具体的にはどのような方法で実験されているのでしょうか?

マウスを使って人工的に脳浮腫を起こさせて脳の状態を解析しています。二光子顕微鏡という特殊な顕微鏡を使って、脳浮腫が起きている瞬間や変化していく様子を、経時的に捉えています。

この研究を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

脳には様々な細胞がありますが、その中でも脳の機能というのは神経細胞が担うと考えられてきました。私はもともと、この神経細胞に着目して記憶の研究を行ってきたのですけれども、研究を進めていくうちに、他の細胞も脳機能に深く関わるのではないかと考えるようになりました。神経細胞とその周辺にあるグリア細胞や免疫細胞がどのように相互作用しているのかを明らかにしたいと興味を持ったのが脳浮腫の研究を始めたきっかけです。脳浮腫も、おそらくこの相互作用を介してコントロールされているのではないかと考えています。

ご自身の研究のどのような点がユニークなところだと思われますか?

脳の免疫システムに着目している点ですね。これまで、脳というのは他の体の臓器とは異なる免疫システムを持つと考えられてきました。でもその実態はほとんど明らかにされていません。ここ最近、2015年頃から、脳の血管周辺に存在する空間が、末梢の臓器における毛細リンパ管に相当する役目を果たしているのではないかということが提唱されるようになりました。私は、血管周辺スペースという、これまで全く注目されてこなかった領域に着目して、脳の働きや疾患、特に脳浮腫との関りについて調べています。

この研究でご苦労されている点は何ですか?

脳の血管周辺スペースに関する研究は始まったばかりで、似たような研究がほとんどなく、実験の開始からすべてが手探りの状態でした。そもそも、見ようとしているものが空間なので、どうやって可視化するのか、また見えたとしてもその形態がいつ、どのように変化するのかもさっぱりわからない状態で研究を始めました。そのため、たくさん問題点もあったのですが、学内外で知り合った様々な研究者の方と解決策を見出しながら研究を進めています。

今後の研究の見通しや発展についてお聞かせください。

今は脳浮腫という病態が起きた時に血管周辺のスペースがどのように変化するかを調べていますが、今後は、血管周辺スペースを人為的に狭くしたり広くしたりした時に、脳浮腫に対してどのような影響がみられるのかを明らかにしたいと思っています。このことにより、脳浮腫の治療に関する重要な手掛かりが得られるのではないかと期待しています。

ところで、研究者になろうと思ったきっかけがあれば教えてください。

もともとは国語や英語などの文系科目が得意でしたが医療にも興味があり、薬剤師になりたいと思って大学に進学しました。4年生の時に研究室に配属されたのですが、生まれて初めて、生きた脳の細胞を、顕微鏡を使って観察しました。細胞が活動する様子がとても神秘的で感動したことを今でも覚えています。脳の神経細胞というのは、個々の細胞がネットワークを形成して活動するのですけれども、それぞれがどのような挙動を示すのか、またどのようにネットワークを作って活動するのかなど、明らかにされていないことがたくさんあります。このような未知の領域で、その一端でも明らかにできれば、と思ったのが研究者になろうと思ったきっかけです。

国語や英語が得意だったとのことですが、研究をしていく上でこれらの科目で養われたスキルはどのように活かされていますか?

研究者はいつも実験ばかりしているわけではなく、結果をまとめる段階で論文を書いたり学会で発表したりしますので、文章力や英語力も大事です。また、ディスカッションするときにはコミュニケーション能力も非常に重要だと感じます。

最後に、中高生に向けてメッセージがありましたらお聞かせください。

研究の世界というのは、時に大変なこともあるのですが、新しい発見の連続で、とても刺激的です。最近は研究者による中高生向けのイベントも企画されているので、ぜひ足を運んでみてください。また、研究というのは理科や数学以外にも様々教科で学んだことを総合的に活かせる仕事だと感じています。なので、今、アンテナを広く張っておくことが、思わぬところで将来的にも役にたつと思いますよ。

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