地球温暖化が進む中、持続可能な社会の実現が大きな課題となっており、とりわけ二酸化炭素を有効に利用するための新しい技術に大きな期待が寄せられています。2019 年エナゴ奨励金一般研究グラントを獲得された森内敏之さんは、二酸化炭素から医薬品や樹脂などの素材を合成できる、新しい触媒の開発に成功されました。研究の過程で見つけた小さな発見や気づきが、新しい反応システムのヒントになったといいます。触媒開発の舞台裏についてもお話を伺いました。
二酸化炭素を原料にして医薬品や樹脂などを合成する新しい方法を開発しています。特に注目しているのは尿素です。これまでの尿素の合成は、高温・高圧という条件のもと、非常に毒性の強い物質を用いて行われていましたが、このような方法は決して環境にとって良くありません。また、材料として化石燃料が使われていましたが、貴重なエネルギー源を材料として消費してしまうのはもったいないことです。もし、二酸化炭素から直接尿素を作る方法があれば、二酸化炭素の削減にも貢献できますし、化石燃料の消費も抑えられるので一石二鳥というわけです。私は鉄とバナジウムを触媒として利用することにより、二酸化炭素から常圧で尿素を合成する新しい反応システムの開発に成功しました。
新しい技術を社会実装につなげるためには、豊富にある材料を使いコストを抑えることが重要です。私は地球上にたくさんある金属を利用したいと考え、触媒の候補として鉄やバナジウムに注目しました。いずれも酸化還元機能と酸素親和性という触媒に必須な特性を備えているにもかかわらず、これらを二酸化炭素の触媒として使う技術は確立されていなかったのです。実は、私はバナジウムがアルコール誘導体から酸素を取り出すこと、また別の反応において、二酸化炭素が金属の中心から出ていくことに気がつきました。二酸化炭素が出ていくことができるということは、逆に入っていくこともできるのではないか、そして取り込まれた二酸化炭素からアルコール誘導体と同じように酸素を取り出すことができるのではないかと考えたのです。偶然見つけたこれらの反応を組み合わせた結果、思った通り、二酸化炭素から尿素を合成する新しいシステムが出来上がりました。
たまたま原料を活性化する金属を見つけられたというのは本当にラッキーでした。そういうきっかけが無い場合は文献を調べて思いつくしかありませんが、それだと他の研究者が考えていることと同じ発想になってしまいます。何気ない、ほんのちょっとしたきっかけから、計り知れない成果が生まれるのだと実感しています。
化学合成の仕事は、まずは反応させてみて、わずかにできた生成物が本物かどうかを解析するところからスタートします。初めは思い通りのものがなかなかできず、ほとんどがネガティブな結果に終わります。でも雲外蒼天(うんがいそうてん)といいますか、ある時、やっと目的の化合物を確認できるということが起こるのです。そのような日は、嬉しさのあまり眠れないくらいです。
二酸化炭素を炭素資源として様々な物質を作り出すことができるようになると思います。例えば、現在、ペットボトルの廃棄処理が問題になっていますが、現在用いられているポリエチレンテレフタラートに代わる材料を、二酸化炭素を使って合成することが可能になるでしょう。また、プラスチックの一種であるポリカーボネートの合成も実現できると思います。さらには、動植物の死骸やゴミを資源として活用するいわゆるバイオマスの技術としても、私が開発している触媒システムが大いに役立つと考えています。
実は、大学の3回生までは部活のサッカーに熱中していまして、あまり勉強していない部類だったかと思います(笑)。でも4回生になって研究室に配属されてから、授業で味わうことの無かった科学のすごさや研究の醍醐味というものを感じました。思いついた発想を「ものつくり」に変えていく創造の営みを目の当たりにして感動しましたし、その結果として私たちの生活も豊かになるというのは本当に素晴らしいことだと思い、研究の道に進むことに決めました。
人は誰でも、幼い頃は、身の回りの物事に対して非常に興味を持っていて、お父さんやお母さんに「これは何?」「あれはなぜ?」と聞くんです。でも年齢が上がるにつれて、身の回りの現象を当たり前に感じるようになってしまうんですね。これはとても残念なことだと思うのです。大きくなっても「どうして?」とか「すごいな!」という疑問や関心を抱き続けて欲しいです。そして「こんなものがあったらいいな」ということを、いつも夢として描いてもらいたいのです。そうすることによって学習意欲も増しますし、感性、知性、探求心も養われると思います。