2019年度 エナゴ・グラントへの採択
おめでとうございます

皆様の研究が、
世界に届きますように!

2019年度エナゴ・グラント 採択者インタビュー

2019年度 エナゴ グラント 採択者インタビュー

袴田 航(はかまだ わたる)先生
(日本大学 生物資源科学部)

研究テーマ:ウイルス種によらない抗ウイルス剤の開発

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、有効なワクチンや抗ウイルス薬の開発が喫緊の課題となっています。これまでの開発は主にウイルスをターゲットにして行われてきましたが、季節性のインフルエンザに対しては有効ですが、新型のウイルスに対しては後手に回ってしまうという弱点があります。2019 年エナゴ奨励金・メディカル研究部門を獲得された袴田航さんは、ウイルスの種類に依存しない抗ウイルス薬の開発を手がけていらっしゃいます。その戦略的なアプローチについて伺いました。

どのような研究をなさっているのですか?

現在、新型コロナウイルスの感染が拡大していますが、その一因として、抗ウイルス薬が無いということが挙げられます。季節性インフルエンザウイルスのように毎年流行を繰り返すウイルスに対しては、抗ウイルス薬を開発することが商業的にも比較的容易なのですが、突発的に新しいウイルスが出現してしまうと、為す術が無くなってしまうのが現状です。ウイルスの増殖を防ぐためには、ウイルス側をターゲットにして抑制する方法と、人間の体の中にある「ウイルスを増殖させるしくみ」をターゲットにする方法が考えられます。前者の方法ではウイルスごとにターゲットが変わってしまいますが、後者の方法なら、ウイルスの種類によらず増殖を抑えることができるのです。わたしは後者の視点に立ってウイルスの種類によらない抗ウイルス薬を開発しようとしています。ウイルスの表面は糖鎖(とうさ)と呼ばれるものに覆われているのですが、ウイルス感染はこの糖鎖を介して起こります。そこで、この糖鎖を感染しにくいタイプに変えるような、そして、そのウイルス粒子が細胞内で作られないような阻害機構に注目しています。具体的にはヒトの小胞体に存在するグルコシダーゼと呼ばれる酵素の阻害剤を合成しています。

具体的にはどのような方法で研究しているのでしょうか?

阻害剤の合成は2通りのアプローチで行っています。1つはグルコシダーゼの構造から有効な阻害剤の「設計図」を予測し、それに基づいて合成する方法です。酵素が基質と相互作用する部分、いわゆる活性部位と呼ばれる部分ですが、その形をコンピューターで詳しく解析し、これにフィットするものをコンピューター上で作り上げ、実際に合成し、ウイルスの増殖を抑えられるかどうかを確かめるのです。もう1つのアプローチは、既にある多くの化合物の中から酵素の活性部位の形に合うものを探し、抗ウイルス活性を持つものを見つけ出す、いわゆる化合物ライブラリーからのスクリーニングという方法です。

この研究のユニークな点は何だと思われますか?

ウイルス表面の糖鎖を制御することによって、ウイルスの感染を抑えようという試みはあまりなされていないではないかと思います。また、以前は基質と形が似ている阻害剤が主流でしたが、基質とは全く異なる、医薬品に近い構造の阻害剤を合成しようとしている点も従来とは異なります。

この研究の難しいところは何でしょうか?

抗ウイルス活性をもつ物質がなかなか見つからないということですね。見つからない時期が長く続くと、やはり辛いです。また、ヒトに対する抗ウイルス活性を測定するというのは、安全面の問題から非常にハードルが高く、現時点では、ヒトに感染しないウイルスを使った実験から推測するしかないのが実情です。もう少し頑張って研究を進めて、ヒトでの活性を確かめるというステージまでもっていければと思っています。

この研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

大学4年生の時に配属された研究室の指導教官が、抗ウイルス性抗生物質であるツニカマイシンが作用するしくみについて研究していました。その結果、ツニカマイシンは糖鎖を制御していることが明らかになり、現在、広く研究の現場で用いられるようになりました。私も、ツニカマイシンに匹敵するような物質を作ってみたいという思いが研究の原動力となっています。

今後の研究の見通しはいかがでしょうか?

幸い、化合物ライブラリーからのスクリーニングにより、抗ウイルス活性をもつ化合物が見つかりました。コンピューターで予測した化合物からも抗ウイルス活性を持つものを合成し、抗ウイルス薬につなげていきたいと思っています。また、グルコシダーゼの役割についても明らかになればと思います。実は、遺伝的にこの酵素が働かない方がいらっしゃるのですが、このことから、この酵素は生存には必須ではないけれども何か役割を果たしているはずと考えられています。グルコシダーゼの阻害剤ができれば、この酵素の生物学的な意義についてもさらに理解が深まるものと期待しています。

ところで、研究者になったきっかけは何かありますか?

そんな、たいそうなものが無いのですが、どうしましょう(笑)。しいて言えば、学部4年生の時に研究室に配属されて、有機合成が好きになったというのがきっかけです。有機化合物の構造をじっくり見て、「きっとこういう風にして作ることができるのだろうな」と予測して、実際にそれを自分の手で合成する楽しさに目覚めました。作ったものが何かの役に立てば、さらに嬉しいですよね。いろんなものを自分の手で作りたいという好奇心でここまでやってきたように思います。

最後に一言、中高生へのメッセージをお願いします。

是非、好きなことを、とことん突きつめてください!テーマは何でも構わないと思いますよ。

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